アメリカで野外調査をする難しさ②
僕は博士の学生の時にノースキャロライナ州の南部でヒガシイモリの調査をだいぶやりましたが、いろいろと苦労しました。
まずは研究費が無くて、僕の担当教官もお金がなかったので、なけなしの金をはたいて交通費にしました。ホテル代をセーブするために、車中泊も何度もしましたし、泊まる時はいつも30ドルくらいの安いモーテル(なぜか床がべとべとしてたりする。ベッドはなんとなく湿っている)でした。車中泊をしている時に、「ここは車中泊禁止だぞ!」と警察に注意されたこともあり、怖い思いをしました。アメリカの警察官はごついし怖いですから。
イモリは池にいますが、その池は大抵民間人が所有しているので、その方々の家のドアをたたき、許可をもらう必要があり、すごく憂鬱な時間でした。白人居住地域にみすぼらしい(野外調査の)恰好したアジア人が現れ、「池にいるイモリを捕まえてよいか?」と聞くのですから、大抵はネガティブが反応が返ってくるのです。
そうやってリジェクトされ続けるともう車から降りて人の家に行く勇気さえなくなります。そんな数日を過ごし、ノースキャロライナ州の野生動物管理部に話を聞きにいった時があったのですが、なんと住民が怪しいアジア人がうろうろしていると報告したようで、「君があの怪しいアジア人か!」と、野生動物管理官は僕のことを知っているではないですか。もう勘弁して~。
採取許可書や学生書を見せ身の潔白を証明し、ようやく受け入れてもらえましたが、これがアメリカ白人だったら全く状況は違ったでしょう。当時は英語も今より下手でしたし、ノースキャロライナ州の野外調査は3年位やりましたが、毎回憂鬱でしたね。もともとフィールドワークが好きでこの道に入ったのに、あれだけフィールドに出たくないと思ったことはありません。
さらに、サウスキャロライナ州での調査に出かけたときには、池にワニがいるこを忘れていて、えらい怖い目にあいました。池に入って網でイモリを明後日いると、「じゃっぼん」と大きな音がします。「ウシガエルにしてはやたらでかいなぁ」、なんてのんきに構えていると、何かがこちらに泳いでくるではありませんか。まさか…ワニ!と叫ぶと同時に一目散に池から上がる。いやぁ、怖かったです。それまでに住んだウェストバージニア州、テネシー州はワニはいませんでしたから、待ったく考えてませんでした。
僕は1人で野外調査をするしかなかったので、このように心細い思い、怖い思いを何度もしました。よく何事もなく無事調査を終え、博士課程を終えたものです。そうそう、野外調査とは関係ありませんが、院生時代に住んでいたアパートで銃撃事件が起こり、僕のトラック(トヨタタコマ)がとばっちりをうけ、何発も銃で撃たれる事件もありました。警察に連絡しても犯人は逃走中だし、責任能力もないからあきらめてくれと言われ、泣き寝入りです。
極めつけは、ピザの宅配を頼んだ時に、店の人に「その郵便番号地域にはピザは配達しないことになってます」と言われたことです。つまりそれだけ危険な地域に僕は住んでいたのです、家賃が安かったから。そのアパートは一年もたたずに契約を解消して出ました。
アメリカは大きくて乱雑で厄介な国です。そんな国で有色人移民が生活をし、さらに野外調査をするとなると、奇怪で時には怖い経験がもれなくついてくる。生態学者の見えざる一面ではないでしょうか。大学のオフィスからこんな景色を眺めつつしみじみ思い返しました。運が良かったなぁと。
この話はさらに続きます。