アメリカで野外調査をする難しさ①
本当にお久しぶりのブログです。いろいろと忙しくやっとりました。
今日は有色人種や外国人がアメリカで野外調査をする難しさについて。これは「科学に内在する差別」についての授業で取り上げた内容に基づいてのお話しです。
2020年にニューヨークシティーのセントラルパークで、バードウォッチングをしていた黒人男性が白人女性によって警察に通報される事件がありました。これを事件たらしめたのは、白人女性が「黒人に脅されている」と虚偽の通報をしたことです。
これの事件がきっかけで有色人種がアウトドアをする際に白人により受けた差別について大きく取り上げられることになったのです。白人の中には有色人種が野外で何かをやっていると「怪しい」と思う人が一定数いて、それが有色人種がアウトドアを楽しんだり、野外で仕事をする権利を侵害しうるのです。
今の世の中アウトドアを楽しむのはラグジュアリー、贅沢なことです。時間とお金、文化的な素地やある程度の知識がないとアウトドアにたどり着かない世の中です。日本でも自然に触れる機会が多い子は裕福な家庭の子だというデータがあります。こういったハードルがあるため、有色人種や移民はアウトドアに届かず、アウトドアにたどり着いたさらに限られた有色人種は白人の興味を引くのです。興味を引くだけならまだ良いですが、時にはそれが差別につながり、権利の侵害につながることになるのです。
メンフィス大学の大学院生の時代に生態学の授業のティーチングアシスタントをしたことが何度もありました。生態学では実習もあり、実習の一環で学生をカヌートリップに連れていくことを毎回やっていました。が、そこでの学生のカヌーへの反応の違いに驚かされたのを今でも覚えています。
テネシー州メンフィスは黒人約65%、白人が30%ほどです。大学のクラスではほぼ白人と黒人が半々でした。彼らをカヌーに連れて行くとほとんどの白人学生は慣れた感じでカヌーに乗り込むのですが、黒人の学生の多くが水を怖がり、カヌーを怖がり、大騒ぎになることがしばしば(苦笑)。
川が浅いところではカヌーを降りて引っ張らなくてはいけないのですが、黒人の女の子の中には一度カヌーに乗ったら終わるまで絶対降りたくない子がいて、僕が代わりに自分のカヌーと彼女たちのカヌーを引っ張ることが何度かありました。そう、彼らのほとんどがカヌーを経験したことがないのです。
また、生態学実習の一環で大学の野外演習場を利用することが何度かありました。白人の学生は全員自分の車を運転して演習場に行くのに対して、黒人の学生のほとんどは僕が運転する大学のバスに乗り込んで一緒に行ったものです。彼らの多くは車を持っていないのです。車を持っていなかったらアウトドアを楽しむことも難しくなります。ましてやカヌーなんて無理ですよね。
蛇足ですが、黒人の学生(いつも10人前後だった)をバスに乗せて演習場を往復する時の彼らの陽気なこと!おしゃべりや笑い声が絶えず、運転手の僕はいつも圧倒されていました。一度は黒人学生みんながゴスペルを歌いだして、その盛り上がりがすごいこと。アジア人の青年が運転するバスの中でゴスペルを熱唱する黒人学生(笑)。
さらにゴスペル熱唱組は演習所からの帰りに、アジア人バス運転手(僕)に「スーパーにとまってくれ」と要求するではありませんか。タクシーじゃないっつーの(苦笑)。しかも僕は一応博士課程の学生で、ティーチングアシスタントとしてお金ももらってるし、授業の一環だし、「無理だよ~」と断りましたが、「ミズキ、僕たちは貧乏で車もないんだよ」と頼まれて、大学のバスでスーパーに寄ったのを覚えています。
大丈夫かなぁと心配しましたが、スーパーの袋を持って嬉しそうに帰ってくる学生をみたら、これでいいのかなと思ってしまいました。
次回は僕の経験談です。