信仰が守る森 ― 山形県羽黒山

信仰が守る森 ― 山形県羽黒山

先週末、ポチと母、祖母の4人で祖母の生まれ育った山形県鶴岡市羽黒町に行ってきました。7年ほど前に他界した祖父のお墓参りです。74歳の母と、96歳の祖母の老老の二人ですから、「運転手兼お財布係としてついてきて!」という訳で声がかかったのです(苦笑)。

庄内平野を見渡せる丘の上の祖父のお墓。庄内が好きだった祖父ですから、きっと喜んでいると思います。旅のメンバー4人でパチリ。

せっかく7時間もドライブしていくのですから観光も、ということで、致道館藤沢周平記念館今井アートギャラリー羽黒山、そして銀山温泉にまで足を延ばしました。今井アートギャラリーには祖母のおじにあたる今井繁三郎という画家の作品が展示されていて、祖母の従妹にあたる方が館長をやっているので、やたらと昔話に花が咲いていました。

羽黒町は僕にとっても小さい時から毎夏遊びにきていた思い出深いところです。特に羽黒山には羽黒に遊びに来るたびに登り、途中の茶屋や山頂の売店で、アイスクリームや玉コンニャクを食べた楽しい思い出があります。

羽黒山神社のある山頂までは、スギの巨木がならび、その中に永遠と続くかのような石段が続いています。子供ながらに「この山はなんだか神がかっているな」と思わせる神聖な雰囲気があるのです。

今回はポチと二人、小雨の中傘をさして登ってきました。ポチにとっては初の羽黒山で、永遠に続く石段を前にして「これいつまで続くの~!?」。「山頂にいったらアイス食べよ!」と、僕。夏のアイスのパワーは大人にも十分通用するのです(笑)。

セミの合唱の中、石段を登っていくと、カエルが何匹か飛び出てきました。近くに繁殖場所となる小川や水たまりがあるのでしょう。これはタゴガエル。色も模様もステキ!

マガタマハンミョウにも出会えました。ハンミョウの仲間は鋭い大あごを持っている肉食で、英語ではTiger Beetle(タイガービートル)と呼ばれています。ナミハンミョウはボディも美しく、子でもの頃よく追いかけたものです。今でも見つけるとワクワクするもんで、子どもの頃の自然体験とはなんと力強く心に残るものでしょう。

羽黒山は、月山、湯殿山と共に、出羽三山を成す山の一つ。出羽三山は、日本古来の自然崇拝に由来する山岳信仰の山々です。その古くからの信仰は、スギの巨木とそれを取り囲む森、そこに宿る多くの命を守ってきました。日本の古くからの自然崇拝が、開発が進み生物の多様性が失われつつある日本において、社寺林(神社とお寺に関連する信仰の対象となる森や林)と言う形で、日本各地の自然を守ってきたのです。

その傾向は特に都市部で顕著で、例えば京都市をグーグルマップのサテライトビューで見ると、緑に見える所(木がまとまって残されている所)はほぼ全て社寺林だということが分かります。社寺林は都市部において緑のパッチを残し、特に飛べる昆虫や鳥たちの都市における生息地として重要な役割を果たしています。研究者たちは(石井らによる2010年の論文。このブログの最後に引用文献があります)社寺林が生物多様性の維持に果たす役割と問題点を論じています。

僕はもともとお寺や神社が苦手でしたが、40歳を回ったくらいでしょうか、お寺や神社の良さに気づき、ピュアな部分での仏教や神道の教えの価値を見直すようになりました。自然を理解するには科学の視点が大切ですが、「自然と共存し守っていくのだ」というアクションの原動力となるのは自然に対する敬意や感謝の気持ちだと思います。

敬天愛人。自然を敬い、人を愛す。

鶴岡市の致道館(昔の庄内藩の学校)に掲げられた格言です。西郷隆盛の座右の銘だったとか。庄内は西郷さんと歴史的な繋がりがあり、この格言が致道館にも掲げられたそうです。

敬天愛人の解釈にはいろいろあるでしょうが、文字通りの解釈、「自然を敬い、人を愛する」は、仏教、神道の教えのエッセンスではないでしょうか。

Ishii, H.T., Manabe, T., Ito, K., Fujita, N., Imanishi, A., Hashimoto, D. and Iwasaki, A., 2010. Integrating ecological and cultural values toward conservation and utilization of shrine/temple forests as urban green space in Japanese cities. Landscape and Ecological Engineering6(2), pp.307-315.

ー 瑞樹

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